両子詠十首(田辺誓司作)
山苣(ヂサ)の散りたる花のここだ見え夏深まらんわ
が生(あ)れし村
冬の夜の空をオリオン移りゆく始終なき時の
中のひととき
まのあたり源氏蛍の明滅す音なく生くる蛍の
あはれ
ぽうぽうとカーバイドの火赤く燃え夜更の川
に魚漁りゆく
川なかの平たき石に眠りゐて夕べ覚むればお
もき水音
籾殻の燻り(くすぶり)ゐつつ暮れしかば
草深谷(くさふかだに)にたつ音のなし
はじけつつ青木の青葉燻るも焚火たのしき日
の暮のころ
冬の夜の庭にあふげば覆ひ(おほひ)くるごとく銀河の
星々ひかる
しんしんと雪つむ夜は早々と行火(あんか)を抱き(いだき)寝ね
んとぞする
杉二本立つ川べにて生れし家の痕跡はなし夏
草茂る